今年度は、舞踊における身体が舞踊以外のジャンルに投影されたときに、その当該のジャンルにいかなるインパクトを与えるか、また舞踊のジャンルにいかなる影響がフィード・バックされるかを重点的に研究した。舞踊の身体は、特に十八世紀末から二十世紀はじめにかけての文学(なかんずくロマン主義とその末裔)における身体表象と表裏一体にして発展してきたものであり、今回、文学上の身体がいわば集約的に問題化されているカフカのケースを重点的に調査して、そこにみられる神経症の身体の抑圧と回帰のドラマが、コンテンポラリー・ダンスにいたるまでの舞踊の身体におけるそれと歴史的にも共時的にも通底することが確認されたのは、大きな収穫であった。つまり、ロマン主義においてロマンティック・バレエとともに開花したヒステリー的身体が、十九世紀のブルジョワ論理によって美的に整形されることによって抑圧され(ロシアの古典バレエ)、それがまた、カフカとほぼ同時代のロシア・バレエ団とニジンスキーによって再発見ないしは再解放されるという、身体論から見た近代舞踊の身体の展望と布置が、あらためてカフカにおいてはっきりトレースされることによって、本研究の身体論の妥当性と射程の広さ・深さがあらためて証明されることになったのである。 今年度はまた、現代でもっとも注目すべき振付家であるフォーサイスが開発した振付用のソフトウェアを分析研究して、コンピュータ上の仮想空間でシミュレートされる身体の動きがどれほどの実現性と創造性を帯びうるかという問題を集中的に検証することも行った。
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