今年度は、これまでに収集できたデータを基に一応の結果を成果としてだすべく、その整理と分析に追われたが、一応整理ができた段階で、再度、京都教育大学図書館と大阪教育大学図書館を訪れ、資料の再調査を行なった。なお、前者には、お礼の意味も込めて、整理した資料をFDとプリントアウトの形で渡してある。 まず、この調査結果であるが、私がテキストファイル化できたものは、京都教育大学図書館にある教科書資料の約半分でしかないことが判明し、収集し未調査の資料は、まだ整理がつかずに手許にあるので、将来これも加えた形で、さらに完璧な調査・分析結果を発表したいものと考えている。 次に、以上の過程でテキストファイル化できたものに限っての分析結果であるが、戦前の明治期から第二次世界大戦直前までの中等学校レベルの音楽教科書における〈故郷〉の扱い方には、以下のような非常に興味深い事実を指摘できる。 (1)明治時代には、歌詞で問題になっているのは、周囲世界の故郷ではなく、我が家であり、しかもそこに今現にいることの楽しさが歌われている。 (2)時のたつにつれて、帰郷が主題化され、ちょうどそれに対応する形で田舎の自然が前面に出、郷愁が問題になり始める。 (3)しかし、この段階、つまり大正時代までは、この郷愁は純粋に故郷への想いであり、そこに立身出世といった要素は皆無である。 (4)しかし昭和の初期になると、状況は一変し、故郷は、男子たるもの、出世のために出郷すべき場所となり、したがって、錦を飾れるまでは、うっかり帰りたくとも帰れない、異境にて夢見られる場所となる。
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