昨年度にひきつづき、とくに解釈学的観点から、芸術の真理性、およびその存在論的意味を考察した。本年度はとりわけハイデガーのテクノロジー論を中心に、その美学上の問題や、芸術理論への影響を整理し、分析することに重点をおいた。つまり西欧の哲学的伝統の中で形成されてきた「技術」概念をあらためて問い直すと同時に、それを古代ギリシアにおける経験にまでさかのぼって問題としたのである。ギリシア語のテクネーは、わたしたち人間存在が世界と物へとかかわるその基本的関係性を表示する概念であり、たえずピュシスとの相互関係にあったと考えられる。テクネーとピュシスとの抗争と相互関係こそ、中後期ハイデガーの存在論における主導概念をなすものであり、そこに芸術の問題と真理の問題とが交叉する中心のテーマを見出すことができる。このようなテクネーと芸術をめぐる主題にかんしては、本年度における研究のひとつの大きな柱をなすものと考え、第50回美学会全国大会において、口頭で研究発表をおこなった。論文の形では、来年度の京都市立芸術大学美術学部研究紀要に掲載される予定である。 以上のような、いわば原理的・哲学的な考察と並んで、より具体的に芸術と真理をめぐる研究が試みられたが、それはとりわけ「映像」というメディアの研究としてなされた。現代のリアリティを表現し、その隠された諸相を暴き示す媒体として、映像は今日特別な意味をもっており、この点に集中して検討が加えられた。イメージ一般の問題、写真など静止画像、映画、されには3次元のヴァーチャルリアリティまで含めて、広範な表現媒体として、「映像」が捉えられ、分析された。こうした具体的研究は、美学理論が空理空論に陥らないために不可欠のものであり、今後も継続して考察していく予定である。
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