平成11年度は、前年度にひきつづき、明治初期の大改革により近代の宮廷音楽伝承制度を確立させた宮内省式部職楽部が、やがて部内外の諸事情の推移により変化を見せ始める明治後期から大正・昭和戦前期を中心に、以下の作業を通して調査研究を行なった。 (1)戦前の宮内省楽部に関連する文献・公文書の調査と収集(設備備品費、複写費を使用) (2)『芝葛鎮日記』『豊原喜秋記』など近代の雅楽家の日記の解読と分析 (3)「明治・大正・昭和戦前期に任官した楽部楽師一覧」「楽部年表」作成作業の継続 (4)唱歌・軍歌など明治期の新しい音楽表現の成立に近代の雅楽家が担った役割に関する国際学会での研究発表とその論文執筆(旅費を使用) (5)江戸期から昭和戦前期までの雅楽伝承制度の変化を俯瞰した学会コロキウムでの発表 (6)昭和戦前期までの宮内省楽部に関する「楽部略史」とりまとめの試み 明治初期に他の日本音楽種目に先駆けて伝承制度を近代的に再編し、活発な活動を開始した宮内省楽部は、明治天皇大葬・大正天皇大嘗祭・昭和天皇大嘗祭など近代日本の国家的な大儀式を通して世界に誇るべき文化財として広く国民に認知された。しかし一方で、長年にわたる人事の停滞や待遇への不満とそれに起因する離職者の増加、後継者難などの問題も発生しその対応に迫られていたこと、また畿内をふくむ地方の神社や天理教をはじめとする教派神道系宗教団体での雅楽の実技指導など、民間への雅楽普及に対して職業的音楽家集団である楽部が重要な役割を果たしたこと、などが明らかになった。
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