研究概要 |
ヴェズレー(ヨンヌ県)のベネディクト会修道院ラ・マドレーヌ教会(La Madeleine,Vezelay)は壮大なナルテックスをもつ。このナルテックスに面する三部構成の扉口彫刻はロマネスク美術を代表する重要な作例である。しかし、扉口をよく観察すると、石質と彫刻様式が一様でないばかりか、切断・損傷の痕跡や不揃いの石組みがみられる。さらに中央扉口の中央柱と抱き(jamb)は二層からなる異例の構成をとる。ナルテックス扉口にみるこうした変則性は、施工の途中で扉口構想が変更された結果であると推察されてきたが、変更以前の構成とその時期については未だ定説がない。 本研究代表者は、ヴェズレーのナルテックス扉口の復元に関し、次の調査と試みを実施した。 1)ヴェズレーの修復に関するヴィオレ・ル・デュクの資料収集 2)ナルテックス扉口とその周辺部の石組み観察および写真と文字による現状記録 3)扉口の測量値と考古学的観察にもとづく現状の扉口と復元案のAutoCAD化 4)研究ツールとしてのAutoCADの可能性の試験 扉口の考古学的観察の結果、ヴェズレーのナルテックス扉口は1140年頃既存のポーチを壊して前方に大きなナルテックスを増築した時、最終的に今見る構成になったと推察される。現存のナルテックス建設以前にポーチがあったことはナルテックスの北外壁にみるアーチの痕跡や南内壁の東角にのこる柱礎からほぼ確実であるが、ポーチの平面と立面は想像の域を出ない。本報告では資料と実測とコンピュータを結び付けた実験的な研究方法として、復元案の一つとそのヴァリエーションをAutoCADを使用し、コンピュータ上で試みた。
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