本研究は仏教図像集の基礎資料である『図像抄』の成立を明らかにすることを目的とした。『図像抄』は、十巻にわたって諸尊の像容を約140図、収録した最初の図像集であり、最重要資料であるにもかかわらず、その編纂者について、恵什説と永厳説があり、恵什については生没年も不詳なほど不明な点が多かった。 そこで、全図像の典拠を検討し、重文指定の醍醐寺本を定本にして、異本との交合を行い、写本系統を整理することによって、白描図像全体の伝来の中で位置づけをし直すことにした。同時に、選者恵什についての基礎資料を作成することによって、『図像抄』成立過程を検証することができる。活字として公刊されている図像抄とは写本系統を異にするもの、また中には大正新修大蔵経の図像部には掲載されていない図像も見出され、目下整理を進めている。 本研究の実作業は図像抄を収集することを第一目的としたため、初年度はまずできるだけ多くの関係図像の写本を収集するため、醍醐寺・高野山・東京国立博物館など、図像抄の現存写本を可能な限り、調査出張に重点を置き、醍醐寺を中心に調査を実施した。その調査の成果として、醍醐寺の仏画目録のあり方について「醍醐寺所蔵仏教絵画調査の経緯と目録の課題」を執筆し、目録の整備を開始することができた。また、「画僧信海の出自と事績」を発表し、白描図像作家の信海が似絵の出身であることを明らかにすることができた。 また、調査収集した図像はデータベース化するため、画像処理ソフトである文化財総合管理システム「KAI」を導入して、調査で得られた画像情報を逐次、入力しはじめたが、さらに2年を要すると予想される。以上の作業から、醍醐寺所蔵の白描図像の系譜を聖教の写本系統の転写関係から次年度以後、検討する。『図像抄』十巻については、撰者恵什の法流、勧修寺寛信との関係について、基礎資料は収集できた。図像抄の成立を白描図像の系譜の上で位置づける課題が残されている。
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