本研究は、平成10年度から12年度までの3年間の予定で進められている。初年度の昨年度、ヤン・ブリューゲル(父)作の「花の静物画」並びに「花環の聖母子」の作品目録の作成を開始したが、本年度も、その作業を継続し、パソコンに個々の作品に関する文献資料のデータを入力し、研究のための基礎資料の一層の充実をはかった。 また、本年度は特に、共同制作という問題に着目して、ヤンが、ルーベンスやヘンドリック・バーレンら人物画を専門とする画家たちの協力を得て「花環の聖母子」を制作するようになった状況の解明を試みた。ミラノの枢機卿フェデリーコ・ボッローメオの著作やヤンのボッローメオ宛の手紙の読解を通じて、聖職にある美術愛好家による「花環の聖母子」の受容の仕方を明らかにするとともに、フランドルにおける画家の専門分化の進展、静物画と人物画の理論上の位階と実際の美術マーケットにおける両者の価値評価の逆転の問題など、「花環の聖母子」の成立を、宗教ならびに芸術の世俗化という両側面から考察を加えた。その結果、「花環の聖母子」は、基本的には、静物的要素が主役となる図像であり、聖母子を描く人物画家は、基本的には従の役割を果たしているにすぎないことが明らかになった。また、やはりこの観点から、ヤンの後の世代のダニール・セーヘルスらの作品では、花環が取り囲む図像が聖母子に限定されず、キリスト伝やマリア伝にもとづく説話画面が多く描かれるようになったという事実も考察されねばならないことが明らかになった。そこで、そうした作例の目録化と主題による分類に着手した。 さらに、新規に購入した高画質のデジタルカメラで撮影した画像を絵の細部比較に用いるさまざまな方法について検討した。
|