本年度は、3年計画で遂行された本計画の最後の年に当たった。初年度に、ヤン・ブリューゲル(父)作の「花の静物画」および「花環の聖母子」の作品目録の作成を開始したが、本年度も、その作業を継続し、研究の基礎資料の一層の充実をはかった。 また、本年度は、「花環の聖母子」の諸ヴァリエーションと呼びうる作品に関する研究を行った。「花環の聖母子」は、聖母子像を花環が取り囲むという基本的図像形式から出発して、様々な展開を見せるようになる。ヤン・ブリューゲル(父)の作品においても、花環の形態が多様化するし、また、花輪は、単にカルトゥーシュに結びつけられるのみならず、風景の中の樹木につり下げられたりするようになる。さらに、ダニール・セーヘルスなど、ヤンに続く世代の画家たちの作品においては、花環が取り囲むのは聖母子像に限定されなくなり、諸聖人であったり、さらにはキリスト伝やマリア伝に基づく説話場面であったりするようになる。こうした花環によって囲まれた、さまざまなヴァリエーションの宗教図像の分類を行うために、さまざまな展覧会カタログ、および美術館のコレクション・カタログにもとづいて、作品目録の作成を試みた。この目録の作成を通じて、時代が下るとともに、宗教的意味を持たない、純粋に世俗的な図像を花環が囲むという作品も少なからず制作されたことが明らかとなった。 さらに、西洋の花の静物画の我が国における受容の歴史を探るという観点から、徳川吉宗の命で輸入され、江戸の五百羅漢寺に下賜された「ファン・ロイエン花鳥画」に関する研究を行った。大浪・孟高兄弟によるこの絵の模写に記された大槻玄沢の画賛を、オランダの詩人ヤン・フォスの詩と比較検討した。
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