本研究は3年計画で、平成10年度は中国画論の調査・収集、およびその体系化作業、11年度は日本古代・中世の文人画以前の画論や絵画認識を示す資料の調査・収集、最終の12年度は日本近世の画論資料の調査・収集、および報告書のとりまとめを行った。 日中画論研究の前提として報告書の第一章では、まず中国の画論を鑑賞論と制作論に大別し、それぞれ主題優劣論・品第論・分類論・流派論・目録論・画家伝、勧戒論・六法論・山水画論・文人画論・画譜類に類別して、それぞれの時代ごとの消長を調べた。その結果、魏晋南北朝時代に成立した画論は、初期には目録学等の影響を受けながら絵画の用途や形態に従って発展・変化し、宋代以降は著録・目録類、画譜類等の実用書や文人の趣味的生活指南の類へと変質してゆく趨勢が明らかになった。 第二章ではこの中国画論史の大略を踏まえて、日本の画論や各種文献に中国のどのような思想や考え方が影響を及ぼしているかを考察した。その結果、『源氏物語』の「筆かぎりありければいとにほひなし」の語のように、実物の魅力に対する絵画表現の限界が指摘され、同質の発想を持つ『淮南子』や『論衡』との類似が検証された。また『古今著聞集』には『歴代名画記』等の絵画文献が、『太平広記』等の類書を通して摂取され、日本絵画の逸話として咀嚼・消化されている様子が確認された。そして他に類を見ないとされていた『君台観左右帳記』の形式が、中国文人の趣味的生活指南書の早い例であることを推定した。最後に近世初頭の『等伯画説』における中国学習と等伯の創見を比較検討した。 近世画論の大部分を占める享保期以降の文人画論は、その量の莫大さゆえにあまり考察を加えることができなかった。今後は日本古代・中世絵画関係文献の補充研究、近世画論の継続検討を行ってゆきたい。
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