研究概要 |
本年度は,頭部運動にともなう立体視的運動錯視(stereo-illusory motion)をもたらす最小の頭部運動量,つまり,錯視の閾値を測定した.本実験で使われた刺激,装置は,平成10年度,11年度に使われたものと同じある.頭部運動は0cm,10cm,20cmであり,テスト刺激は5,10,15,20′の交差性と非交差性の網膜像差を持っていた.また,刺激が提示されたスクリーンまでの距離は160cmで一定であった.本実験では閾値を直接測るのではなく,頭部運動の際の,テスト刺激の見かけ運動量から推定した.われわれは,それぞれの網膜像差ごとに,見かけの運動量(x値)を頭部運動(y値)の関数としてプロットしたデータを最少二乗法で直線を当てはめ,その直線とx軸の交点を運動錯視を感じる頭部運動量の最小値とした.その結果,網膜像差の種類(交差性か非交差性か)や網膜像差の大きさに関係なく約30′程度の運動量であった.網膜像差の種類で差がなかったということは,見かけの運動量で見られたような交差性と非交差性の差(平成10年度の結果)は,運動量特有のものであることを示している.また,網膜像差の大きさに関わらず最小運動量が一定であったということは,視覚系は頭部運動の角度的大きさ(angular size)を使って運動量を計算していることを示唆している.このことは,Wade & Swanston(1996)の知覚理論と一致する.また,最小運動量の大きさは,観察者運動あるいは静止時の,刺激運動閾値(秒のオーダーである)と比べると非常に小さい.なぜ,このような値になるのかを考察する必要がある.
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