本研究では、顔の記憶、風景の記憶、文章理解に対する聴覚刺激の妨害効果、という複数の高次認知課題にみられる個人差とメタ認知的知識の利用に関して検討を行った。主たる研究成果は以下の通りである。(1)記憶方略および知能が顔の長期記憶および風景の長期記憶にみられる個人差をどの程度説明できるかを明らかにするために、再認記憶課題、記憶方略の調査、知能検査課題を行い、回帰分析、共分散構造分析により検討した。その結果、顔、風景のいずれの記憶についても記憶方略との有意な関係がみられなかった。一方、言語性知能が顔の長期記憶に対して負の相関、風景の記憶に対しては正の相関をもつことが示され、長期記憶の個人差に関し、知能要因の影響は顔と風景の記憶では性質が異なっていることが明らかにされた。(2)顔の再認記憶にみられる個人差が日常認知に対するメタ認知的知識とどのよに関連するかを明らかにするために、日常認知質問紙および同画像、異画像再認課題を行い、質問紙項目と再認記憶成績との相関を分析した。その結果、日常認知質問紙との相関が高いのは同画像再認課題よりも異画像再認課題の成績であること、日常的な認知様式が顔の記憶の個人差と関連していることが明らかになった。(3)短期保持、長期保持後の顔の記憶成績が使用する記憶方略によってどのように質的に異なるかを検討した。示差特徴符号化方略とイメージ操作方略を比較した結果、長期的な記憶保持にすぐれているのは後者であり、使用する記憶方略の違いによって形成される記憶表象に質的な違いがみられることが分かった。(4)文章理解課題の遂行中に同時に呈示される聴覚刺激(言語音、非言語音)による妨害効果の個人差が聴覚刺激に関するメタ認知的知識とどのように関連するかを調べ、さらに聴覚刺激による認知妨害効果の個人差の規定因に関する文献レビューを行い、今後の課題を検討した。
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