例えば、隠蔽物の背後を同じ方向に動く物体を見ると、4ヶ月齢の乳児でも、それはひとつのものだと認識する(物体の一体性知覚)。このような認識は、ヒトが種々の仮説を利用して外界の事物を認識していることを示す。本研究の目的は、知覚を制約するこれら仮説の進化を明らかにすることである。霊長類と鳥類の知覚的補間過程を分析し、以下の成果を得た。フサオマキザルに1本の斜め棒図形と中央部がとぎれた同図形および中央部が不規則な形状でつながった棒状図形の見本あわせを訓練した後、見本の中央部を帯状図形で隠して表示し、どの比較刺激を選択するかをテストした。見本が帯の上下で水平に運動する条件と静止した条件があったが、いずれの場合もサルはまっすぐな棒状図形を選ぶ強い傾向を見せた。つまりサルは隠された部分を直線的に補間することがわかった。2本の斜めの棒図形が「く」の形に配置された図形と「こ」の字のように平行に配置された図形を用いて同様のテストをすると、「く」の字配置の時はつながった棒、 「こ」の字配置の時は切れた棒を選択した。つまりサルは2本の棒を常に一体とみなすのではなく、2つの部分がなめらかに連結可能か否かに応じて一体・非一体を判断した。また、棒の外輪郭をジグザグ図形にしてテストをすると、サルは隠された部分をジグザグ図形で補間するらしいことを示すデータが出つつある。霊長類の補間過程は、おそらくヒト成人によく似た良い形や規則性の要因に従うものと思われる。ハトを対象に同様のことを調べたが、補間を示す結果は得られなかった。ハトは霊長類とは異なる視覚情報処理過程を進化させてきたのかもしれない。現在、食物の写真を刺激として、補間の有無を調べている。知覚的補間過程と食性の関連性を探るために、食性の異なる種を用いた実験を開始した。また、マカクザル乳児を対象に発達的検討をおこなったが、明瞭な結果は得られなかった。
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