回転刺激や筋肉への振動刺激がそれぞれ独立に、視覚や聴覚のような自己の周囲の世界を感知する系に与える影響については、以下の点が明らかになった。 1.回転刺激による光点の見かけの動きは、回転刺激の停止直後から加速度的に減衰し、ほぼ20-30秒間の間に消失すること.一方、自己の正面を基準にした光点の見かけの位置の偏移は、最初、ほぼゼロ、それから急速に位置ずれが大きくなり、20-30秒に最大に、その後、徐々に減少し、50-60秒後に消失した. 2.回転刺激の呈示から、見かけの動きや見かけの偏移の計測開始までに、時間遅れを挿入すると、見かけの運動では時間遅れなしで得られた回転停止後の同一経過時間の結果と同じ値が得られた.一方、時間遅れを挿入した後の初回は自己の正面に、その後、20-30秒間、偏移が増加しその後減少するということがわかった. 3.上記二つの結果は、基本的に見かけの動きの大きさと(速さ)と見かけの位置ずれの関係は、ニュートン物理学が予測するような関係とは異なる.これは、対象定位と見かけの運動を引き起こす機構のさらなる解明が必要なことを示唆している. 4.光刺激の場合と異なり聴覚的な刺激では、音源が動いて聞こえないこと、音源位置の偏移は、視覚と同様に見られることが明らかになった. 5.頚筋への振動刺激は回転刺激と同様、光点の見かけの運動と位置ずれを生むが、その刺激の効果は少し異なり、時定数が短いことが明らかになった.今後、多くに資料を集め、その差異を詳細に明らかにする必要がある. 6.自己の身体の定位に関係する自己受容感覚が視覚や聴覚のような外受容感覚からの情報の処理にかなり大きな影響を与えていることが確認された.これは、外界の把握において自己の身体性、身体的基盤が強く関連していることの表れと考えられる.
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