研究概要 |
自己受容感覚と総称される身体感覚,運動感覚等を実験的に操作する方法の開発し、それらが外受容感覚系の知覚や空間定位への影響と精密手指動作への影響を、実験的に検討してきた。前庭系への刺激として負の回転加速度刺激を、自己受容感覚信号生成法として、首の項部の筋への振動を採用した。刺激後に生じる外受容感覚に及ぼす効果と手による身体部位のポインティングと身体正面前方のポインティングのズレについて調べた。 その結果、視覚対象の見かけの運動は、allocentricな定位と同じ仕組みと考えられること、それに対し、自己中心的な定位では、自己の身体を含む基準枠が関係しており、前庭系刺激の効果の消失過程はallocentricな定位とは異なることが判明した。聴覚では、allocentricな定位への影響はないが、自己中心的な定位への影響は視覚と同じであった。 首の頚筋への振動は、前庭刺激と同じ効果をもつと結論できる結果を得た。また、どちらの刺激でも、精密手指動作である身体界面部位のポインティングは余り影響を受けず、身体から少しはなれた手の届く空間では、ポインティングのズレを生んだ。その意味で、身体周囲の空間は身体界面とは異なる定位メカニズムである。それは、先の外部対象把握における自己中心的定位機構と共通の性質を持っていると思われる。高速コンピューターや様々なセンサー技術により、人の周囲の視覚空間、聴覚空間、触空間を出来るだけ臨場感、没入感のある形で構成する技術はほぼ実現可能になっている。しかしながら臨場感、没入感にあふれた人工的に作られた空間に入り込んだ「人」には乗り越えるべき問題が生じることは、上記の研究から明らかである。没入感のある形で世界を構成するためには、それらの問題を解決する視聴覚刺激、自己受容感覚刺激の与え方の解明に研究の重点を移す必要があることが示された。
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