研究概要 |
本研究の目的は、空間を処理する人間の視覚機構と眼球運動および頭部運動を制御する運動機構との関係を実験的に解明することであり、本年度の下位目標として、「相対距離(奥行)、絶対距離の知覚と頭部運動との関係をウォールペーパー錯視を手がかりにして調べること」を計画した。本計画にしたがって、次のような実験を行い、その成果を得た。 観察者から異なる距離に2枚のグレーティング(縞)刺激を配置する。それらの刺激の中間距離を注視することによって、convergent側とdivergent側での2種類のウォールペーパー錯視が起こる。この状態で、頭部を左右に動かして、知覚されたグレーティングの見かけの運動量とその方向を測定した。頭部運動は、観察者がチンレスト台上での頭部を左右に動かすことによって、一定の距離を左右に運動した。実験の独立変数は、頭部運動量(2.5,5.0,7.5cm)と観察距離(40,80,120cm)であった。実験の結果、知覚されたグレーティング刺激の見かけの運動量と方向は運動-距離不変仮説(motion-distance invariance hypothesis)の予測を確証した。頭部運動量が小さな条件(2.5cm)では、測定された見かけの運動量は、運動-距離不変仮説にもとづく予測より大きかった。この予測値からの偏位は視覚系が頭部運動量を過大に評価していると仮定することによって説明することができる。
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