本研究の目的は、空間を処理する人間の視覚機構と眼球運動および頭部運動を制御する運動機構との関係を実験的に解明することであった。下位目標として、(1)相対距離、絶対距離、物体の大きさを処理する視覚機構とバーゼンス運動(輻輳性眼球運動)との関係の解明、(2)絶対距離を処理する視覚機構と頭部運動との関係の解明を計画しており、これらの成果にもとづいて、視覚システムの"機能的原理"を理論的に解明することであった。平成12年度は、これまでの年度で未解明の現象を検討し、これまで行ってきた実験的研究の成果を統合して、空間を処理する視覚系の"機能的ストラテジー"を解明した。第1の原理は、『絶対距離情報を用いた奥行のスケーリング原理』である。この原理は、スカラー情報としての奥行特性を提供する奥行手がかりである両眼網膜像差、両眼網膜像差勾配、運動視差、運動視差勾配を、絶対距離(エゴセントリック距離)情報を用いてスケーリングすることによって見えの奥行特性をアウトプットしていると考えられる。第2の原理は、『両眼統合原理(サイクロピアン・パーセプト原理)』である。この原理は、外界からの両眼入力を1つに統合する機能的役割を果たしていると考えられる。第3の原理は、眼球運動および頭部運動が視覚世界の構築に果たしている役割に関係したものである。視覚系は、外界の事物の運動による運動入力と自己運動にもとづく運動入力を区別するための原理にもとづいた処理を行っている。この原理を『アフェレンスとリアフェレンスの原理』と呼ぶ。
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