人間のコミュニケーションの最も基本的な形態である聴覚コミュニケーションにおいては、規則性や階層性を持った、独特の「リズム」に乗せて情報のやりとりがなされる。本計画においては、話し言葉や音楽において特に重要な役割を果たす、300ミリ秒以下の時間間隔の知覚に注目し、前後に別の時間間隔が隣接するような様々な文脈において、このような時間間隔がどのように知覚されるのかを、実験的に検討した。特に、時間間隔を区切る音刺激の物理的な性質を変化させると、時間知覚にどのような影響が及ぶかに着目した。空虚時間が、それよりも物理的に短い先行時間に隣接するとき、著しい過小評価が生ずると言う「時間縮小錯覚」に注目し、区切り音の物理的な長さを変化させた。以前の研究により、数十ミリ秒を超える区切り音を用いる際に、過小評価量が著しく減ずることが判っているが、今回の研究により、時間パターンの最後の区切り音の長さが、特に重要であることが確認された。さらに、隣接する2つの時間間隔を区切る3つの音の周波数を独立に変化させ、最初の区切り音の周波数が他の区切り音の周波数と異なる場合、錯覚量が減ずることを見出した、しかし、周波数の違いにより最初の区切り音が分離して知覚されるような場合にも、錯覚がなくなることはなかった。次に、区切り音の強度の違いが、隣接する時間間隔の時間長の比率の知覚に、どのような影響を及ぼすかを調べた。現在、データの分析を進めており、時間間隔の前後を区切る音のいずれかが強ければ、長めに感ぜられることが示唆されている。この他にも、時間間隔を区切る音の性質が、リズム知覚や、メロディー知覚にどのような影響を及ぼすかを調べるような実験を行った。
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