人間の聴覚コミュニケーションにおいてリズム知覚の果たす役割は大きく、リズム・パターンの物理的な性質が知覚内容とどのように関連付けられるかを知ることは大変重要である。これまでは、リズム・パターンを構成する音と音との時間間隔に注目して研究を進めてきたが、現実の言語音声や音楽においては、音の強さや音そのものの時間長も無視することができない。そこで、本年度は、時間間隔を区切る音の強さや長さをさまざまに変化させ、このような操作が時間間隔の長さの知覚にどのように影響するかを検討した。継時的に示される3つの短音によって区切られる、隣接する2つの時間間隔の比率の知覚は、第1音ないし第3音に強勢を加えることによって、かなり変化しうることが、昨年度以来の研究で判りつつあったが、今年度に行った実験により、2つの短音によって区切られる時間間隔が単独で示されるようなパターンにおいては、区切音に加える強勢が時間長知覚に殆ど影響を及ぼさないことが判った。したがって、2つの時間間隔が隣接するパターンにおける強勢の効果は、その特定の文脈に依存することが明らかとなった。そこで、隣接する時間間隔の比率の評定を求めるような実験を行った結果、第1音ないし第3音に強勢を加えることによって、時間長の比率が単純な整数比に知覚されやすくなるような傾向が見出された。このほか、2つの短音によって区切られる時間間隔を単独で示し、区切音の持続時間をさまざまに変化させた実験において、(区切音の始まりから次の区切音の始まりまでの)時間間隔の知覚に系統的な影響が及ぶこと、隣接する2つの時間間隔のうち第1の時間間隔が、知覚のうえで第2の時間間隔に同化する場合があること、などを見出した。
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