研究概要 |
本年度は、「明るさおよび色の同化・対比」を生じさせる「錯視図形」を取り上げ、白黒あるいは赤緑が並列配置されている誘導図形と灰色の検査図形を、現有の「カラープリンタ」、および、本年度購入の「レーザープリンタ」(キャノン,LBP-850)によって印刷し、多様な刺激図形から成る「刺激呈示用冊子」を作成した。そして、これらの冊子を、多数の大学生に配布して、観察経験の異なる彼らが『どのように刺激図形を見ているか』を検討し、「初頭観察の基礎資料」を集めた。この際、観察室での刺激図形の輝度を常時測定しておくために、本年度購入の「簡易型輝度計」(トプコン,BM-8)が有効に利用された。 その結果、初頭の観察では、刺激図形の配置(検査領域と誘導領域の面積比)によって「明るさおよび色の同化・対比」が安定して生起せず、“錯視の見え"が大きく変動していた。しかし、そのような不安定な見えの中でも、誘導領域よりも小さい検査領域の見えが、誘導領域とは反対の明るさや色に変化する「対比」は生じており、“この現象がより感覚的(ボトムアップ的)な機構にもとづいていること"が認められた。一方、誘導領域に比べて検査領域がかなり大きい場合には、初頭観察での不安定な反応が目立っていたが、このような刺激条件での見え方が理解されると、検査領域が誘導領域の明るさや色味に近づいて見える「同化」が明瞭に生じるようになった。これは、刺激図形に対する「図形把捉の変化」を物語っており、“この現象がより認知的(トップダウン的)な機構にもとづいていること"を示唆している。このように、明るさおよび色の錯視(同化・対比)において、初頭観察の効果が明瞭に得られており、これらの結果については、研究論文の作成を進めるかたわら、日本色彩学会や日本心理学会での発表を予定している。また、上記とは異なる「幾何学的錯視図形」に対する実験も進めており、錯視量の初頭観察による変化に、興味ある傾向を見出している。
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