本年度は、「観察経験を操作された被験者群」に対して、初頭の反復観察に伴う「刺激図形に対する図形把捉態度の効果」の検討を進めた。そこでは、「明るさおよび色の同化・対比」を生じさせるために、白・黒および赤・緑の誘導領域を有する多様な刺激図形(傾斜縞模様図形)を、現有の「グラフィック・カラープリンタ」、および、昨年度の当科研費によって購入できた「レーザープリンタ」によって印刷し、これらの刺激図形を個別に呈示して反応を記録・集計するために、本年度購入の「ノート・パソコン」(NEC LaVie LW33H/73D6)を使用した。そして、これらの刺激図形を美術系および他専攻の大学生群に呈示して、初頭の反復観察の経過に伴って、『どのように刺激図形が見られているのか』について組織的に調べてみた。 その結果、ごく初頭の観察では、それまでの観察経験に関わらず、刺激図形の"見え"は総じて不安定であったが、美術系の観察者には、「同化・対比」がすでに一部で生じており、基本的な「錯視図形の見え(捉え方)」に、他専攻の観察者とは差異のあることが認められた。そして、彼らの"見え"は、「同化・対比現象の説明」によって、これまでの他専攻の観察者と同様に安定し、その後の観察において両現象が明瞭に出現した。さらに、観察態度の教示によって、この"見え"が変化しており、刺激図形に対する認知的(トップダウン的)な「図形把捉の変換」によって、より同化的・より対比的な方向への「"見え"の移動」が生じていた。この移動は、観察の反復の中でも同様に生起しており、「初頭の観察経験によって、色および明るさの錯視(同化・対比)が方向を確定していく様相」に興味ある傾向が見出された。これらの結果については、研究論文の作成を進めるかたわら、国際心理学会・日本心理学会・日本色彩学会等において発表を予定している。
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