本年度は、「さらに観察経験を操作された被験者群」として、主として美術系大学生を対象に、初頭の反復観察経験に伴う「検査図形に対する図形把捉態度の変化」の検討を進めた。そこでは、明るさの同化・対比、とくに、同化をより容易に生じさせるために、白・黒の誘導領域と灰色の検査領域を有する「傾斜縞模様図形」において、"縞の数"を変化させる刺激パターンを取り上げ、当科研費によって購入できた「レーザープリンタ」や「ノート・パソコン」を使用して、印刷・呈示・反応集計等を行った。 その結果、刺激パターンの制作や素材に関心が強く、色彩の効果についても知識を有する「美術系大学生の被験者」の初頭観察では、刺激図形の"錯視(同化・対比)の見え"において、「縞の数の変化に伴う同化から対比への変換」がすでに生じており、基本的な「錯視図形の見え(捉え方)」に、他専攻(一般大学生)の被験者とは差異のあることが見出された。そして、彼らの"錯視の見え"は、より複雑な方向(同化→対比;対比→同化)と程度(同化・対比量)に対する「教示された構え(観察態度)」によって、その教示に応ずるように"見えの傾向(方向と程度)"を変化させていた。すなわち、刺激図形に対する「さらに認知的な図形把捉の変換」が、初頭観察の経過の中で急速に形成されており、『錯視の"見え"への総体的な調整』が認められた。これらの結果は、研究論文の作成を進めるかたわら、第27回国際心理学会・第64回日本心理学会・第31回日本色彩学会等において発表され、有益な反応が得られており、今後も発表が予定されている。 さらに、本研究を基礎に、より総合的・発展的な「視覚的対立現象における見えの転換への認知的調整」に関して、新たな研究が計画されている。本研究の成果は、「平成10年度〜12年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研究成果報告書」としてまとめられた。
|