今年度は、2つの実験を行った。 1.早期開眼児におけるその定位活動と移動行動の形成 対象児YKは、生後1歳未満で両眼の先天性白内障の手術を受けた7歳の女児である。YKは、視覚系の障害の他に高度難聴と運動性障害を併せもっており、歩行がまだ困難な段階にある。 今年度は、(1)YKが対象を定位しそれを掴み操作する、そして、(2)対象を追視する機能を形成す自という目標を立てた。対象の定位・操作に関しては、扇風機のスイッチボタンを作り変え、その操作を促すことを試みた。その結果、ボタンの大きさや色を変えてもその行動の改善は見られなかったが、左手をボタンの周辺に置く行動が起こると、右手でほぼ正確にボタンを定位し、操作することが可能となった。対象を定位する際、左手がその助けになったと考えられる。 追視機能の形成に関しては、テレビ画面を利用した。すなわち、1個の光点が左右、上下にテレビ画面上で移動するビデオ映像を作り提示した。光点の大きさ、輝度、移動速度を変化させたが、それらを追視する行動に変化は起こらないが、両手でテレビ画面の左右端を押さえる行動が起こると、テレビ画面の光点を追視するようになった。その後、テレビ画面に手を当てる行動が起こらなくとも離れた場所から光点を追視することができるようになった。このときも、両手が対象を定位する助けを行ったと考えられる。 2. 変換視事態における歩行行動の成立 移動行動の形成機序を明らかにしたいと考え、視野上下反転視事態における歩行行動の成立過程を探索した。100人の大学生を被験者として短期着用の実験を行った。その結果、視点を移動させる一定の歩行方略の変換を経て、安全かつ円滑な歩行が成立することが示唆された。
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