本研究では、洞察問題解決を制約とその緩和のプロセスと捉える立場を採用している。ここで制約とは、対象レベルの制約、関係の制約、ゴールの制約の三つである。我々の理論は洞察問題解決が次のような形で進行することを仮定し、研究を進めてきた。すなわち、これら3つの制約が協調的に働くことにより、洞察問題解決初期のインパスが生成される。しかし失敗を重ねることにより、3つの制約が徐々に緩和し、制約を逸脱した行為の確率が高まり、結果的に洞察が生じる。 各々の制約の存在については、昨年、一昨年の心理学的研究からその存在が確認されてきた。しかしながら、制約の緩和過程についてはあいまいな結果しか得られなかった。そこで本年度は、問題解決過程に評定課題を挿入し、緩和の動的なプロセスを追うこと、およびアイカメラを用いた視線の分析を行い、緩和との関係を明らかにすることを目標とした実験を行った。 評定課題実験においては、正解に近い刺激、中間の刺激、正解とは無関係な刺激を、緩和の状態の異なる被験者に10段階評定をさせた。緩和の状態は、評定課題前までの問題解決従事時間とした。その結果、緩和の状態と評定刺激タイプとの間に有意な交互作用を確認することが出来た。すなわち、緩和が進んだ状態にある被験者は、正解に近い刺激に対して高い評定値を与えた。一方、緩和が進まない状態の被験者は正解とは異なる刺激に対して高い評定値を与えていた。また、制約の逸脱の回数を見ると、問題解決が進行するにつれて増加することが明らかになった。 視線分析実験では、緩和の進んだ被験者は滞留点の数が限定されているが、そうでない被験者は滞留点がいくつも現れることが明らかになった。これは、緩和の進んだ被験者は評定刺激図形の重要な部分に焦点化しているのに対して、そうでない被験者は評定刺激の輪郭をなぞるように視線を動かすためであると考えられる。 また、洞察研究で得られた知見を乳児の物理認識の発達に応用するための実験を行い、現在、結果の分析の過程にある。
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