幼児期から成人期にかけて顔が構造的な変化をしても、同一人物であるという認知が成立するか、幼児期(約5歳)と成人期(約20歳)の女性顔を刺激とし、女性被験者を用いて実験的な検討を行った。対提示された幼児期と成人期の顔が同一人物のものであるかどうかの判断を評定法により行うことを被験者に求めた。 前年度までの研究結果では、同一人物異年齢顔ペアに対する評定値と別人物顔ペアに対する評定値に有意差が見られることから、異年齢顔間でも顔の同一性認知が可能であること、成人期顔が既知なものである場合に同一性認知成績が有意に向上すること、幼児期・成人期ともに特異な顔ペアでの同一性認知成績が有意に優れていることが示された。 各同一人物異年齢顔ペアについて、異なる被験者による2回の評定結果を比較したところ、ほぼ一致した評定結果であることが示された。このことから、異年齢顔間での顔の同一性の評定は被験者間で比較的安定したものであること、同一性の認知が容易な顔ペアと困難な顔ペアが異なる被験者でも一致していることが示唆される。 評定された顔の特異性と異年齢顔間での同一性判断成績との関連についてさらに検討を進めた結果、評定された顔の特異性は成長によってかなり変化することが示された。幼児期に典型的な顔であっても、そのままで成長した場合には成人期には特異な顔となるし、幼児期におとなびた顔のために特異であると判断された顔の場合、成長後では典型的な顔となることもある。これらの場合には、評定された特異性が幼児期・成人期で大きく変化しても、顔の同一性判断は容易である。評定された特異性と異年齢顔の同一性判断との関連は単純なものではなく、顔の特異性によって同一性判断の容易さを予測することは困難であるといえる。
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