幼児期から成人期へと顔が構造的な変化をしても同一人物であるという認知が成立するか、すなわち我々の顔認知システムが成長に伴う顔の構造的な変化に対して頑健性を持つかについて実験的な検討を行った。明らかになった点は以下の通りである。 (1)行ったすべての評定実験において、同一人物の幼児期顔と成人期顔のペアで、ランダムなペアの場合よりも有意に高い同一性評定値が得られた。このことから幼児期の顔と成人期の顔とで同一人物であるという判断が可能であるといえる。 (2)成人期の顔が既知なものである場合、未知な顔の場合に比べて、異年齢顔での人物同一性判断は容易なものとなる。 (3)未知な顔の先行提示が異年齢顔での人物同一性判断に影響を及ぼすか検討した結果、未知な顔を複数ポーズ提示することで判断成績の向上が見られたが、同じポーズの反復提示では判断成績の変化は見られなかった。 (4)異年齢顔での人物同一性判断における判断手がかりについての言語報告の分析から、一般の顔による人物同一性判断の場合に比べて、鼻領域が重要な手がかりとなっていることが示された。 (5)異年齢顔での人物同一性判断に対する顔の評定された特異性の影響については、明確な傾向を見出すことはできなかった。 (6)異年齢顔での人物同一性判断に対する倒立提示の影響を検討したところ、同一人物ペアに対する評定値では有意な変化は見られなかったが、異なる人物の幼児期顔と成人期の顔のペアに対する評定値は有意に向上した。同一人物であるという判断よりも、異なる人物であるという判断において顔の全体的な形態情報が用いられていたと考えられる。
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