研究概要 |
Baddeleyの作動記憶モデルの枠組みで中央実行機構に関連づけて注意機能をとらえ,本年度はその基礎資料を得るために,次の3つの事象関連脳電位(ERP)実験を実施した. 1. 認知課題遂行に要請される注意の切り換え 両耳分離聴事態で注意方向を操作した.異なる単語対を1秒間隔で呈示し,その第1・第2語対のうち,注意条件で指示された側に時おり呈示される非単語を検出させた.その結果,第1・第2語対とも同側の耳で非単語を検索する条件では,従来どおりERPのN400振幅が減少した.しかし,第2語対の検索を第1語対とは反対側の耳で要請すると,N400にそうした反復効果がなかった.N400反復効果が作動記憶に貯蔵されている先行項目の判断を利用することで生ずるという考えに従うと,本結果は注意切り換えによってその利用ができなくなることを示唆している. 2. 意味記憶アクセスにおける注意効果 文字(数字・アルファベット)を刺激とした高速系列視覚呈示(RSVP)課題を用いた.RSVP中の第1標的を検出した200ms後あたりで最大となる注意まばたき現象をプローブ刺激の検出率で確認し,注意まばたき現象に伴うERP変化を調べた.文字刺激を用いたにもかかわらず,単語を使用した先行研究と類似のN400様陰性電位を認め,N400の振る舞いと意味記憶アクセスとを関連づけた解釈に疑問が生じた.今後,この点を作動記憶と関連づけて詳細に検討する. 3. 人の顔認識 モニター画面に人の顔・動物顔・物品などを呈示しながら,同時にヘッドホンから物語を聞かせて,ERPを記録した.被験者がモニター画面に注意を払う条件では人の顔に対してN170成分が明瞭に発達したが,ヘッドホンの物語に注意を向けるとそうしたN170の発達はなかった.このN170における選択的注意効果を基礎として作動記憶における顔刺激情報の検索などを検討する予定である.
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