研究概要 |
平成10・11年度の知見を踏まえ,本年度は次の2つの事象関連脳電位(ERP)実験を実施した. 1.作動記憶における中央実行系と視空間スケッチパッドの活動領域の分離 人の顔写真と物品あるいは漢字1文字を標的として記銘させ,その標的探索時のERPを記録し,作動記憶における中央実行系と視空間スケッチパッドの活動領域の分離を試みた.記憶探索に関わるERP変化は,初期の視知覚に関わるN170成分の頂点後に始まり,前頭中心部と後側頭部(T5・T6)で明らかに異なるパタンを示した.前頭中心部における陰性電位の発達は記憶サイズ応答性に欠けることから,前頭皮質の働きを中央実行系の注意制御に関連づけて解釈した.他方,後側頭部は記憶セットサイズに鋭敏に応答することから,近年の神経機能画像の知見など先行研究を踏まえて,紡錘状回(および,その近隣領域)が視覚的符号化情報の保持と探索処理(記憶照合)を担っていると推定した. 2.漢字の読みにおける注意効果 被験者に漢字を一文字づつ提示し,先行刺激とテスト刺激の意味関連性を判断する条件と黙読条件で実験を施行した.テスト刺激に応答するERP変化をみると,意味判断課題ではN400・P3bといった後期成分で意味プライミング効果が観察され,無課題条件ではそれより短い潜時のP200でプライミング効果を認めた.本結果は,読語認知に関わる処理レベルが課題(注意の分配)に応じて変わることを示しており,注意制御系の役割を明示している.
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