研究概要 |
対象物の視覚認識過程の初期においては,エッジに基づく画像特徴の記述や視点に依存しない3次元の表象を構築することが重要だといわれる。それに対し,本研究では,人が顔を認識する際の情報処理過程でどのような情報が用いられるかを調べた。平成11年度研究では,まず,お面を裏側から見ても凹状の表面としては知覚されず,むしろ凸状に知覚されるというhollow face錯視に,顔の呈示方向,光源位置,および顔表面テクスチャの3要因がどのように影響するかを詳細に調べた。その結果,3要因はすべてhollow face錯視の錯視量を左右し,正立の顔の方が倒立の顔よりも,光源位置が下方にある方が上方にあるよりも,通常の顔テクスチャ(ポジ画像)をマッピングした顔の方がテクスチャのない顔やネガの写真をマッピングした顔よりも大きな錯視を生じさせることがわかった。また,これら3要因間には交互作用がみられ,テクスチャなしあるいはポジ画像をマッピングした顔が倒立に呈示された時には,光源が下方にあるよりもむしろ上方にある時に大きな錯視量が得られた。これらの結果は,陰影による奥行き形状知覚において用いられる上方光源の仮定が,顔刺激においては必ずしも適用されないことを示唆するものであった。また,もう一つの主要な実験として,奥行き方向に回転した2つの顔を照合する心的回転実験を,通常のテクスチャをもつ顔とテクスチャを取り除いた白色の顔を刺激として行った。その結果は,異なる方向から見た顔を比較する際にも,我々が顔の表面テクスチャを利用していることを示唆するものであった。これらの研究結果から,顔の認識には,エッジに基づく画像特徴よりも明るさや色,きめなどの表面特徴が重要であること,および顔の表象は必ずしも3次元的に保持されているわけではないことなど,対象物認識とは異なる情報処理特性をもつことが明らかになった。
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