マカクザル下部側頭回TEO野は、破壊実験の結果から2次元形態知覚には不可欠であるが、視覚性記憶には重要ではない領域とされてきた。ところが最近、TEO野の範囲が電気生理学的に詳細に検討され、従来の破壊実験におけるTEO野摘除域との大幅なずれがわかり、上記概念の再検討が必要となった。本研究では、新しい基準によるTEO野の2次元形態知覚及び視覚性記憶機能への関与を調べることを目的とした。そのため、図形弁別課題及び視覚性記憶課題への新TEO野の摘除効果を調べ、従来型TEO野および脳回TEO野の摘除効果と比較した。得られた主要な知見は以下のとおりである。1)図形弁別術後保時テストと術後初学習での新TEO野摘除による障害は、脳回TEO野摘除によるものよりも重かったが、従来型TEO野摘除による障害よりも軽かった。2)この摘除各群の障害パターンは弁別可能な図形サイズ閾値テストでもみられた。3)視覚性認知・連合記憶課題とされる複式物体弁別課題と視覚性認知記憶課題である遅延見本合せ課題では、図形弁別課題とは逆に、新TEO野摘除による障害は、脳回TEO野はもとより、従来型TEO野摘除によるものより重かった。これらの知見は、1)形態知覚には新TEO野のみならず、隣接する上側頭溝領域を含む複数の領域が関与していること、2)新TEO野に含まれる後頭側頭溝腹内側領域からの視覚性記憶機能に重要な内側側頭葉領域への神経線維投射が記憶機能にとって重要であること、を示唆している。
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