本年度は、語連鎖形成と関連して、言語的概念の連合能力を検討することを中心的課題の一つとした。事物の呼称や単純な指示理解は可能であるが文脈理解が困難である就学前児を対象に「ことばの類推」を通してその応答特徴と指導経過について検討した。5歳時に「会話や相手の話を理解することが困難」との主訴で指導を受けていた男児3名を対象とした。5歳時でのITPA言語学習能力診断検査からは「ことばの類推」が共通して低下しており、本下位検査の言語学習年齢は2:10から3:1であった。先行する文脈に沿って発話を展開することの困難が推定されたため、文脈の理解が求められる以下の課題を設定した。「AはB、Cは?」という問いにおいて、同一のCに対して複数の文脈(例「塩は辛い、リンゴは?(甘い)」「牛乳は飲む、リンゴは?(食べる)」)を用意し、先行刺激対であるAとBとの関係を把握してから応答することを求めた。不正解の場合には絵図版を提示し視覚的イメージから関係性の理解を促した。類推課題の1、2回目の応答を2;11-3;6の健常児6名と比較したところ、平均正答率は遅滞群31%、対照群53%であった。誤答分析によると、健常群では誤反応の半数以上が先行対に関わらず、刺激語から想起しやすい語で応答するパターンであったが、遅滞群では文脈に合わない不適切な語で応答する頻度が高く、刺激語間の関係性を正しく理解することに困難があると推測された。 この他、本年度は、指導開始時に1語文は出現しているが、助詞を含んだ3文節以上からなる文の使用には至っていなかった言語発達障害児2名を対象とし、縦断的に指導を行う中で得た発話サンプルをデータベース化した。今後分析を加える予定である。
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