本研究では、健常児および言語発達遅滞児の自発話および課題場面おける発話を収集・分析し、語連鎖形成能力について検討した。主な成果は以下の通りである。 1.1名の表出性言語発達遅滞児(3;8-5;2まで追跡)と3名の健常児(1;9-2;4まで追跡)における音形的および統語的特徴を検討した。その結果、遅滞児では、表出語彙数、1語を構成する音節数、1発話に含まれる文節数において、同時期に一様に急速な改善を示した。さらに、遅滞児と健常児の両者において、音形面と統語面が並行して発達する過程が確認された。 2.言語的概念の連合能力を検討するため、「言葉の類推」課題を用い、事物の呼称や単純な指示理解は可能だが文脈理解が困難である5歳児3名と2;11-3;6の健常児6名における言語的応答を比較検討した。言語発達年齢で統制されているにもかかわらず、遅滞群では誤答率が高く、文脈に合わない不適切な語で応答する頻度が高く、刺激語間の関係性を正しく理解することに困難があると推測された。 3.4名の言語発達遅滞児と15名の健常児を対象とした連続絵を用いた配列・説明課題では、配列正答率と発話の言語的内容の豊富さ、また、配列正答率と統語的複雑さの指標であるMLUとの間に相関が認められた。しかし、遅滞児群ではCAに比して内容語が乏しく、3-4歳代の健常児群に近いことが示された。また、接続表現の使用頻度も低く、1)名詞、動詞、形容詞等の誤用、2)助詞、助動詞の誤用、3)因果関係・連続性の不適切な説明の3種のうち、いずれかまたは複数の不適切さを示しており、本課題は、発達障害児の統語的側面を評価するのに有効な方法であることが示された。 4.また、健常児および発達障害児の母子間の言語的やり取りについて分析し、親による子どもの発話の「繰り返し」、「拡張模倣」等、語連鎖形成を促すと思われる働きかけのあり方の示を得た。
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