研究概要 |
本研究は,数学的問題解決における類推転移を促進する抽象的知識の性質について検討した. 実験1では,大学生の被験者を3群に分けて,順列課題を解答させ,その解決を,(知識の性質を操作するために)3通りのいずれかで教示(等式に基づく解法の教示,サブゴール教示,なにも教示しない統制群)した.そして,(問題文の類似性と要素の役割を操作した)5種類の転移課題への解答を求めた.その結果,等式教示とサブゴール教示は,統制群に比べて,転移成績は良かった.しかし,(転移において起こる)反転ミスの比率は,等式教示やサブゴール教示は,統制群よりも多かった.また,その比率は問題の種類によって異なっていた. 実験2では,大学生の被験者を2群に分けて,実験1と同様の手続きを用いて,順列課題を解答させ,(反転ミスを起こさないように)知識の性質を操作するために(2通りの方法で問題文における要素の)役割の教示をした.(選ぶ側-選ばれるという)具体的役割の教示と(する-されるという)抽象的役割の教示である.その結果,具体的役割教示群は抽象的役割教示群よりも転移成績が高かった.しかし,反転,ミスの比率に関しては,問題全体を通してのミス反転ミス率に差はないが,問題ごとのパタンには差があった. 以上の結果,数学的問題解決の転移を促進する知識は,解答過程におけるサブゴールと,具体的な役割関係を明示することが大切であることが明らかになった.今後の課題は転移を支えるプロセスを,誤答のパタンに基づいて検討することである.
|