本研究の目的は自伝的記憶がその中に含まれる感情を介して動機づけにどのような影響を与えるかを明らかにすることである。自伝的記憶の内容は何らかの具体的経験であり、その認知としての過去の具体的経験が今後の行動をどのように動機づけるかを検討しようとするものである。 3つの調査的研究が実施された。研究1は女子大学生のスポーツについての自伝的記憶と動機づけが、続く研究2ではスポーツ振興会に所属して現在もスポーツに励む(動機づけの高い)人と特にそのような会に所属しない看護婦のスポーツについての自伝的記憶が比較された。さらに研究3では大学生を対象にして英語学習についての自伝的記憶と現在の英語学習への動機づけの関係が検討された。 現在スポーツをしている社会人は学生時代以降の自伝的記憶が多かったが他の群では学生時代の自伝的記憶が多かった。また英語学習に関しては学校外の出来事に関する自伝的記憶が意外に多いことがわかった。 いずれの研究でも自伝的記憶の内容は正の経験として成功経験、正の対人関係、フロー経験、負の経験として失敗経験、負の対人経験、怪我・危険な経験の6つに分類された。正の経験の多くが正の感情を、負の経験の多くが負の感情を伴っており、正の経験は現在のその行動の動機づけを高めていたが、負の経験は必ずしも動機づけを低減させているわけではなかった。
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