研究1では、幼児群4〜6歳児計43名、及び障害者群として授産・更正施設で共同生活する成人期の28名を対象として、幼児期の社会的交流を介した自己認識の深化が認知的な中間概念の形成とどのように関連しあって発達するかを調べた。系列円描画課題で中間概念を、自己の三方向全身像描画課題で自己概念の形成水準を、新版K式検査で発達年齢(DA)を推定した。3〜6歳に、中間-自己認識形成の5つの発達過程が区分できた。横顔描画(発達過程4)が確定するのは幼児群ではDA5歳後半、障害者群ではDA7歳半ばだった。自己概念の形成不全が個別諸機能の発達を制約していることを示す重要な結果である。自己概念テストは発達把握のための新たな重要課題となる。 研究2では、ヒト乳幼児5名とチンパンジー乳幼児10個体の発達比較によって、社会的交流活動での種独自の特性と種間の共通性とを検討した。ヒト1歳代の特徴をチンパンジーは2〜4歳代に示したが、自分と対象物との間で認知-操作の世界を閉ざすことが多く、他個体との交流の頻度はヒト乳幼児より有意に少なかった。人間による人工哺育を受けた個体は、チンパンジー母親による自然哺育を受けた個体よりも、積木を積む、器で水を汲むなどの道具操作行動が早期に形成される傾向が見られた。道具使用行動は人間的な社会的交流活動の一環としてその形成が促進されるらしい。以上から乳幼児保育で重要なことがらを考察し、制度改革の課題を提案した。
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