ヒト乳幼児5名と飼育下のチンパンジー乳幼児10個体の発達過程を縦断的に観察し、種独自の社会的交流活動の高次化の過程と種間の共通性とを検討した。特に全身活動、積木などの対象操作活動、発声や視線の変化、感情表出の特徴及び個体間の関係を分析した。 全身活動系では寝返りや四足移動をチンパジー乳児は生後3か月頃に獲得した。ヒト乳児より早期である。手指による対象操作では、ヒト10か月児の定位操作をチンパンジーは1〜2歳代に示した。全身活動や道具利用行動それぞれの発達局面の獲得の順序性はヒト乳幼児と共通していた。しかし、相手に物を渡す、模倣する、定位的調整をしながら相手に視線を送るなどの社会的交流活動はチンパンジーでは観察できなかった。また、ヒト乳幼児は、欲求・要求対象に直接到達できない矛盾事態、および、対関係を操作する状況にあるとき、積極的に視線や発声を他者へ送り、社会的な関係を自ら結ぼうとする傾向が強かった。道具使用につながる物の定位的操作だけでなく、対象物を媒介に思考や感情を他者に定位する社会的交流活動を行うことによって、ヒト乳幼児はのちの音声言語形成の前提を整えるらしい。ヒト1歳代の積木つみをチンパンジーは2〜4歳代に示したが、自分と対象物との間で認知-操作の世界を閉ざすことが多く、他個体との交流の頻度はヒト乳幼児より有意に少なかった。人間による人工哺育を受けた個体は、チンパンジー母親による自然哺育を受けた個体よりも、積木を積む、器で水を汲むなどの道具利用行動が早期に形成される傾向が見られた。以上から乳幼児保育で重要なことがらを考察し、制度改革の課題を提案した。
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