幼児が他者の気持ちをどのように理解するのかを明らかにするため、幼児の「騙す」行為について発達的に検討した。10年度では以下のような、研究成果をみた。 1. 効先の騙しについての理解:幼児は他者を助けたり自分の身を守るなどいろんな場面で、どれだけ適切に他者を騙すことができるのかを調査した。対象は3歳児と5歳児であった。「他者を助けるための騙し」「ストーリーの騙しを理解する」という2つのタイプの騙し課題で、幼児がどのような反応をするのかによって幼児の認識を発達的に検討した。その結果、ストーリーとしての騙しを理解する課題では年齢差は見られなかったが、他者を助けるための騙しの課題で年齢差が認められた。この結果は、幼児は騙す能力は潜在的に持っているが、他者を助けねばならないような場面では、幼児が自発的に騙す能力を使おうというメタ認知が働き、騙す能力を自発的に使えることを示している。しかしながら、客観的な話しとして騙しを理解しようとする場合には、メタ認知が作動しないので、自発的に騙す能力を用いないことを示唆している。 2. 柔軟性との関係:本調査では、子どもの柔軟性と騙す能力との関係についても調べた。その結果、柔軟性の高い子どもほど騙す能力が発達していることが明らかになった。特に、この傾向は年齢に低い子どもほど強いことが明らかになった。この結果は、騙す能力は相手の気持ちを理解しそれに対してどのような処理をすべきかを考えるプロセスが必要であることを示唆している。
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