研究概要 |
大卒就職者の5年後の職場適応に関するデータを収集するために,大学卒業後5年目の男性1人と女性5人の調査協力が得られ,質問紙と面接による調査を行った。質問紙は,郵送法により,卒業後の進路と職場の状況,職務満足,大学生活と大学時代および卒業後1年目の職業探索行動または職場適応に関する回想,ライフ・プロジェクトの測定を,自由記述を中心に行った。また,縦断的データを重ねている時間的展望と自我同一性地位の測定,VPI職業興味検査を実施した。面接調査は,予備調査を踏まえて,職場適応の実際の行動,その動機と見通しについて明確にするための質問から構成された。面接記録は筆記されると同時に,テープレコーダーで録音され,文章化された。面接時の職業は,小学校教師3人,会社員1人,大学生1人と主婦1人も参考までに調査された。 面接調査の結果から以下のことが示唆された。つまり,(1)大卒就職者の5年後からみると,最初の1,2年は自分のことに精一杯であったが,仕事のサイクルがわかると余裕ができてきて,周囲が見えてきた。すると,それぞれの年代のひとをモデルにして,その職場での自分のトラジェクトリーを見通すことができるようになった。(2)これは,逆に言えば,周囲に特定の年代のモデルがいない場合,その年代を思い描くことが困難であることを示す。(3)しかも,一定のトラジェクトリーを言えることが必ずしも将来展望の明確化にはつながらなかった。それは,結婚という人生事象が重要な課題となっており,夫の勤務先や職業内容,経済状態,妻の労働への理解などによって,大きく左右されると報告するものが多かったからである。また,主婦のモデルを見ないために,そのトラジェクトリーを思い描くことは少なかった。
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