平成12年度の課題は、平成10年度と11年度に行った模擬月ロケット実験の会話データを、子どもの振る舞いの情報を加味した上で、トランスクリプトとして文字化し、そこから子どもたちの想像活動について予備的な分析と考察を行うことが目的であった。平成11年度のデータをトランスクリプトとして起こす作業が今年度当初の予定通り遂行された。また、平成10年度のデータをもとに、子どもの「待つ力」と「想像力」との関係をさまざまな角度から分析し、その結果を平成12年に開催された発達心理学、及び教育心理学会において発表した。その結果を、論文「想像力と"待つ力"-どのようにして子どもの内的なファンタジーをとらえるのか-」(京都国際社会福祉センター紀要論文)としてまとめた。実験の結果は、シンガーたちの先行研究の仮説を否定するものであった。子どもたちの「待つ力」は、彼らの「想像力」とは必ずしも関連せず、むしろ、セルフモニタリングの力と関連していることが示唆される結果となった。また、子どもたちの月ロケット内における退出を巡るやりとりには、興味深い、ダブルボイス的な駆け引きや、発話の独特のゆらぎなどが見られることが明らかになった。これらの結果の一部について、日本発達心理学会で発表を行った。また、就学前児の「ふり」の共同性には興味深い年齢差が存在することが、我々の考案したカスタネット課題によって明らかになった。年少児は、自己が「みたて」をおこなった場にいなかった他児も、自己の「みたて」を理解しているものと自己中心的にとらているのに対し、年長児は、そのような「みたて」の誤った共同性を仮定してしまうことがはるかに少なかった。この結果についても、発達心理学会と教育心理学会において、発表を行った。また、昨年に引き続き、幼稚園において子どもたちの自然な状況での想像活動を引き続き観察した。
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