本研究の目的は、想像(虚構)世界を子どもたちがどのように立ち上げ維持していくのか、子どもたちの"会話能力"や"想像力"との関連で明らかにすることにある。そのために幼稚園に模擬月ロケットを設置し、平成10年度にペア条件で年長児61名、単独条件で年長児45名の子どもたちをロケットに搭乗させ子どもたちの会話を記録した。平成11年度は、ペア条件で年長児26名、年中児40名、年少児26名の計92名の会話を記録した。また、新たに考案した「カスタネット課題」も施行した。この課題は、2つのタイプを新たに作り、誤信念課題と合わせて、年少児34名、年中児40名、年長児37名に実験を行った。これらのデータを分析し、(1)「想像力と待ち能力とは必ずしも比例する関係にはない」、(2)「年少児はその場にいない他者も自分と同じ"みたて"を共有しているように自己中心的にとらえるのに対し、年長児は他者がみたてを共有していないことを理解できる」、(3)「誤信念課題と"ふり"の共同性の課題は似たパターンを示す」、(4)「年長・年中児とも共同意思決定を行うさいに、ダブルボイス発話や、独特のゆれや、自己矛盾的反応などを示す」、(5)「年少児は、まだ協同で架空の世界を立ち上げる力がないのに対して、年中になると、現実と拮抗する仮定的世界を立ち上げる力が見られるようになる」などのことを明らかにした。それらは、いずれも成果報告書の中で論文の形でまとめられている。まとめると、子どもたちの想像世界を構成する力が、5歳頃から確かなものになり始めること、想像についてメタ意識も同じ頃明確になること、子どもたちの会話は大人の会話とは異なるユニークなやりとり構造が見られることなどが明らかになった。
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