研究概要 |
初年度(平成10年度)は在宅介護者6名を対象とし、面接法による予備調査を実施した。その結果、介護者の続柄(配偶者:嫁)によって負担感・消耗感・認知的成長等の受け止め方に、大きな違いがあることが判った(アジア社会心理学会・発表&質的心理学研究へ投稿中)。そして予備調査の結果を基に、介護者の精神的健康の実態と問題点を明らかにする為、翌年(平成11年度)に、在宅介護者551名を対象に、本調査(郵送法による質問紙調査)を行った。これらの結果については、5件の学会報告(日本心理学会:2件,日本健康心理学会:3件)を行い、2本の論文(社会心理学研究・健康心理学研究)を投稿中である。結果の概要を以下に記す。 (1)主介護者のサポート供給源は、サポートの種類によって分化の傾向が認められることや、子供・嫁は同居家族に偏りがちなのに対し、配偶者は別居家族からのサポートも多いことが判った。また、公的サポートの利用回数や満足度は負担感や消耗感の一部の軽減に影響し、その重要性が示唆された。(2)介護者が子供や嫁である場合、配偶者に比べ年齢も比較的若く、介護年数は短いにも拘わらず、負担感はよりも高い。また、痴呆度が高い場合に負担感が増大するのに対し、「介護者の会」への入会年数は負担感を軽減する効果をもつ可能性が示唆された。(3)主介護者の認知的成長段階を3群(未受容・移行・受容)に分類では、痴呆度と介護者会への入会年数で、媒介変数では一部のサポートと総てのコーピングにおいて、3群の間に有意な差が認められた。またストレス反応は、認知的成長段階と共に変化することが示唆された。 分析結果を基に、さらに翌々年(平成12年度)に「介護者の会」の効果について調査を行い、セルフヘルプグループである「介護者の会」は、介護体験の共有化や客観化に効果があることが明らかになった。そして、負担感・消耗感を軽減したり、会への所属感やサポート認知の高さと関係するのは、会内における親密な関係の存在であり、介護者の精神的健康にとって重要であることが判った。加えて入会年数と会内親密ネットワーク(NWの存在に関して交互作用が見られ、親密なNWの存在は入会年数が長期に及んだ場合に、より効果をもつことが示唆された(日本健康心理学会・発表)。 以上、頂いた科学研究費補助金を有効に活用し、3年間に多くの知見を得ることができた。これらの結果については、上記を含む計5本の論文を投稿中である。
|