心理臨床において、問題を抱えていながらも相談意欲のないクライエント(IP)に対してどのように対応したらよいかということは重要な問題である。本研究では、そのような事例に対する効果的なアプローチについて研究を行った。このアプローチは、「ネットワーキングによる心理的援助→目標の共有→自助努力・自助活動を引き出す」ということから構成された著者の理論的モデルに基づくものである。 本研究では、不登校・引きこもりや社会性のない非行や暴力を伴う重篤例をはじめとする相談意欲のない事例等が報告された。著者はカウンセラーとして、それらの事例に対して、キャンパスや外来相談室において本人が安心してくつろげる居場所づくりによる心理的援助を行った。さらには、ボランティア、学生、教員、主治医、カウンセラー等のネットワーキングによる心理的援助を行った。その結果、クライエントの状態は安定し、引きこもりなどの不適応行動は消失し、さらに対人関係は改善し、生活の行動範囲も拡がった。 このアプローチは個人心理療法とくらべて、以下のような特徴を備えている。(1)ネットワークの見立て・心理診断、(2)カウンセラーによる家庭訪問、(3)逃げ場を作りつつ関わり続けること、(4)歯止め的現実提示的と支持的受容的という二種のネットワーキングによる援助、(5)学内や外来相談室での居場所づくり、(6)本人の「注文をつける能力」と「工夫する能力」を育成すること、(7)カウンセラーに対する非現実的万能感的期待をふくらませないこと。
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