他者と共同作業をする場合、しかも個人個人の仕事量が同定されず集団全体のパフォーマンスしか把握できないような課題(例えば綱引き)の場合、個人当たりのパフォーマンスが低下する。これを社会的手抜きという。従来の研究から集団サイズが大になるほど、匿名性が大となるために手抜きの量は増大することが明らかになった。しかし作業が長時間に及ぶ場合、手抜きをする方が結果的にはパフォーマンスが優れることが予測される。そこで本研究では手抜きのポジティブな側面を測定することを試みた。 実験手続きとしては、集団全体として、協力して10キロの力を維持するように教示した。フィードバックは各被験者の前にあるディスプレーを使ってリアルタイムで行った。実験条件は2条件(8人集団で実験を行っていると教示する条件と2人集団で実験していると教示する条件)であった。実際は両条件とも8人集団でロープを引っ張っている。実験開始後、しばらくは集団全体の張力は最初はなかなか安定しなが、2人(教示)集団の方がより早く10キロ付近に収束した。これは2人で引っ張っていると思っているから責任の分散が生じにくいためであると考えられる。しかしこの作業を30分間続けた場合、2人(教示)集団の方が8人(教示)集団よりもパフォーマンスの低下の程度が大であった。これは2人(教示)集団では飽和が早く生じてしまったものと解釈される。結局長時間の作業は手抜きができる環境の方が効率が良くなることが示唆された。
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