1996年に発生したガルーダ・インドネシア航空機の事故に関する調査結果から、物理的脅威の増大はかえって乗客同士の助け合いや、リーダーの発生を促し、集団理性性を高めることが示唆された。それに対して人間的脅威は集団理性性を低めることが示された。ただこの事故では乗客の大半が互いに職場の同僚や友人や家族であったために、上述の結果が得られたのではないかと考えられた。本年度はこの結果を確認するために、物理的脅威(電撃予告)と人間的脅威(一つの出口当たりの集団サイズ)と集団成員の親密さの程度が集団理性性(具体的には、出口での混雑発生、脱出成功率、他者に対する譲歩行動や攻撃行動の頻度)に与える影響について実験室実験を通して検討した。実験は2(集団サイズ、9人集団と3人集団)×2(未知の人から成り立っている集団vs.知人から成り立っている集団)×2(電撃の脅威が与えられる条件vs.電撃の脅威がない条件)の実験計画で行われた。実験の結果、未知の人の集団の場合には電撃条件では集団理性性が明らかに低下したのに対して知人集団の場合にはかえってそれが上昇(脱出成功率の上昇、攻撃頻度の低下、譲歩頻度の上昇)した。このことから緊急事態の集団行動は日頃の人間関係の質に左右されることが明らかになった。
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