2種類の研究を行った。第1は次の2つの要因がリスクに対する対応行動(保険の選択)や認知にいかに影響するのかを実験室実験を通して検討した。第1はコントロールの所在の要因である。例えば、リスクを伴う対象を自分がコントロールしていると思っている場合(例、自動車のドライバー)、他者が自分の運命をコントロールしていると思っている場合(例、自動車の助手席に座っている人)、自分が自分を含めて集団全員の運命を担っていると思っている場合(飛行機のパイロット)のような状況が考えられる。第2は事故や災害の発生頻数や1回当たりの被害の大きさの要因である。例えば航空機事故のように稀にしか発生しないが多数の死傷者が出るものや自動車事故のように頻繁に発生するが被害は比較的少ない事故がある。被験者はスロットマシンを操作して、その結果により被害額が決定されるような状況に置かれた。実験条件としては自分が自分のスロットをコントロールしていると思い込んでいる場合、他者が自分のスロットを止めていると思っている場合、自分が全員のスロットを操作していると思っている場合の3つの条件が設定された。さらに50回の実験試行のうち2回しか災害(スロットの目が揃う)に遭遇しない条件と15回遭遇する条件を設定した。前者は1回当たりの被害額が大であり、後者は小さい。最終的には両条件とも被害額は同じになる。実験の結果、自分が自分だけの運命をコントロールしている条件で最もリスク認知は低くなり、また選択した保険の金額も少なくなることが明らかになった。そして被害頻数が少ない条件でコントロールの所在の効果が明確に現れた。このことは被害頻数が少なくしかも1回当たりの被害規模が大きいカタストロフィックな状況でコントロール所在の効果が顕在化することを示唆している。 第2の研究はパニックという言葉の使用例の分析を行った。過去10年間の新聞のパニックに関する記事を抽出し、その分類を行った。次のような分類が可能であることが明らかになった。パニックになった実体(個人、集団、地域、国)、予測vs事実、ドラマvs現実vs誰かの発言、場所(外国、日本)、動物vs人間、パニック引き金の種類(地震、洪水、台風、戦争、爆弾、銃撃戦、火事、事故、伝染病、株の変動、為替変動、金融、石油、スト、スポーツ)である。各分野の使用頻度については現在分析中である。
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