研究概要 |
前年度の研究によって,鏡映像を利用したやりとりの試みは自閉症児のコミュニケーションを活性化させることがわかった。しかしながら,関わる他者との関係性によってその効果は大きく異なり,自閉症児特有の他者関係に特異的なコミュニケーション様相を依然として表していた。そこで,本年度は特定の他者との愛着関係の形成過程とコミュニケーションの質的変化の関係性について検討した。passive typeとactive but odd typeの自閉症児の各1名を対象として,新規な特定の他者との愛着関係の形成を試みた。その結果,次のような知見を得た。 1)愛着の形成過程に伴って自閉症児の自己表現は質的に変化した。2)特定の他者との間で交わされる自閉症児の言語表現は,愛着関係の変化に随伴して,言語表出の形態が一語発話から多語発話へと言語獲得のプロセスを辿り直した。3)他者の行為の動作模倣が出現する以前から,鏡映像の模倣としての自己身体と鏡映像の連動性を確認する行動が見られた。このことから模倣の成立条件としての自己と他者の類同性の認識が発達する以前に,自己と自己鏡映像との類同性の発見が先行する可能性が示唆された。さらに,他者の行為の動作模倣が出現するためには一定の愛着関係の水準に到達する必要があった。4)鏡像の自己認知と運動や音声の模倣は相互に関連しており,両者は他者理解や他者認識の水準と密接に関係していることが示唆された。
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