当初の計画に沿い、4年間の総計で、男性45名、女性39名の、ラテンアメリカからの留学生に、MMP1のスペイン語版(ブラジルについてはポルトガル語版)と、神経質調査表のスペイン語版を施行した。上記テスト結果を個別にフィードバックする機会に、2〜3時間面接。現地諸国(アルゼンチン、メキシコ、ペルー、パラグアイ、ブラジル)における、それまでの生活体験と、日本に来てからの体験について話を聞き、資料の収集を進めた。また、必要に応じてその後何度か会い、継続面接を行なった。 心理テスト結果については、日本人との間にそれほど大きな違いがないことが判明したが、これはよく考えると、むしろ、日系人の日本人との近縁性を示している資料とみなすこともできる。日系人がそのパーソナリティにおいて、現地人より日本人に近いと考えられる面は、とくに神経質調査表に表れているが、ちなみに、日本の対人恐怖症状に似た困難を訴える人が何人かいたほどである。 日系人留学生においては、日系人労働者らと比べると、精神的に比較的安定しており、すでに社会における実績を積んできている、といった印象を受ける。一方で、面接資料を通じて明らかになったこととして、アイデンティティに関わる葛藤を抱えている点は、日系人一般と同様と思われる。 「現地では日本人とみなされ、日本では外国人とみなされる」と語る人も少なくない。これはわるくすると、「いずれの国においても外国人として扱われる」ということであり、この状況は、精神的葛藤や病理につながる潜在性を蔵しているといえよう。今回の調査を通じて、今後も日系人の精神的諸問題を継続調査することが、むしろ日本人の義務であるとの感を強くした。
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