子どもの月齢6〜12ヵ月までの半年間、毎月「ビデオ育児日記」と名付けた観察方法で家庭における母子の日常での遊戯的なやりとりを母親自身に記録してもらった。15組の母子から少なくとも3ヵ月分の記録が得られた。 得られたビデオテープから、親が子を「笑わせようとした」場面とそれに対する子どもの反応を基準として、その前後20秒間からなる合計45秒間のエピソードを抽出し、分析対象とした。分析は【母親】≪行為のタイミング(不意/予告的)、動作形態(通常/コミカル)、刺激強度(身体接触、ふり・まね)、笑いの表出(あり/なし)≫、【子どもの反応】≪拒否・不快、注目・緊張、引き出された笑い、楽しさの笑い≫についてコーディングをすることで行った。 現時点で得られている興味深い傾向としては、(1)6か月の乳児でも、母親の誇張した行為に笑いを示すこと、(2)所与の観察期間中に母親が「子どもの笑いを更に誘発しようとする行為」の出現率が大きく増加する時期があること、(3)その一方で、母親の笑い誘発の試みの成功率が低下する時期があることである。つまり、親のより笑わせようという意図と、子どもの方がそれに、簡単には応じなくなるというように、両者の関わり合いにずれが生じる時期のあることを示した。そして、その分、やりとりの持続時間がより長くなり、乳児の非笑い反応も増加した。この時期の笑いは、親との交渉の末、最後に、笑いに転じることを示唆した。(4)さらに、乳児の笑いは、母親の直接的なくすぐりよりもコミカルな仕種に対してよく笑っていた。 これらから、乳児の笑いは、親の「笑わせようという」行為に誘発されるよりも、親との交渉を通してその行為の意味が共有されてることで生じるのではないかと示唆される。
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