子どもの笑いの月齢による増減を指標に、発達的に母親の働きかけへの協調的反応が減少する時期を探り、その要因を検討した。また、母親が子どもを笑わせようとしてしばしばするからかいゲームがなぜ乳児の笑いを引き出せるのかその構造を、このようなやりとりはメタコミュニケーション論でいう二重のコミュニケーションではなく、何らかの身体表現に基づくのではないかという仮説に沿って検討をした。 対象は、20組の母子。6か月から12か月までの毎月と15か月まで縦断的に親自身が育児記録として自分と子どもとのやりとりをビデオに記録した。こうして得られたビデオ記録から、まず、子どもの笑い、不快の出現時点を同定し、そこ5秒を基準点とし、それに前後の20秒を加えたの合計45秒の時系列を1エピソードと定義した。 結果は、6か月で微笑んでいたのが、7か月では微笑みが減り、8か月では不快の表出が比較的高まり、9か月以降は、不快の出現が希となり、協調的、積極的に母親に応じるように変わったことを示した。したがって、8か月での不快の増加傾向は、子どもの積極性が増し、この時期に母子のやりとりが再編成されたと考えられる。次に、子どもの笑い、不快、母親の情動表出と「ふり」の出現率の高低で「調和」・「不調和」群に母子を分け、笑い、不快の先行要因にどのような違いがあるのかを典型例で比較した。その結果、調和群では、基準点の直前で「本来」から「ふり」、または逆の入れ替わりが認められるのに対して、不調和群では一貫して本来がふりより高いかった。この違いが両群の笑い・不快の出現率の違いを生んだと考えられる。つまり、母親が急に大げさ・コミカルな動作をしたり、逆に、急に真面目になったりする行為の落差が、子どもの笑い引き出したと考えられる。したがって、メタコミュニケーションは、このような動きの系列から考え直さなくてはならないことが考察された。
|