本研究の目的は日本の農村女性の自立の条件と自立の具体的プロセスを女性労働の存在構造を踏まえつつ、明らかにすることにある。農村女性労働の先行研究は少なく、女性労働に関わる事例研究の積み上げによる理論化こそが重要となる。3年計画の2年目の今年度は、1年目の統計資料によるマクロデータ分析と農村の訪問調査を踏まえて、次のことを行った。1、農村女性労働の本格的な調査を実施した。女性起業や家族経営協定、女性のネットワーク活動を重視して、福島県内の相双地域及び会津地域、山形県置賜地域、長野県下伊那地域から対象集落、農家、グループを選定して事例調査を行った。2、調査結果をとりまとめる方法や視角について示唆を得るために、専門家・研究者からの指導を受けた。その際、アジアや先進国の女性労働の研究動向の把握にも努めた。3、手薄な西日本の調査研究を3年目に手がけることを見据えて、西日本の農村女性労働に関わる資料を収集した。1〜3から明らかになったことは、家族経営下の農業労働の編成がジェンダー間分業を基礎になされていること、また直売や農産物加工等の女性起業や女性が主要な担い手となる農家民泊、あるいは家族経営協定は農家女性労働を社会的に価値をもつ自己実現労働に転換し、従来のジェンダー間関係の修正を迫る契機を含んでいることが確認された。しかし、それも労働市場や農業形態、土地所有制度に規定されて一定の限界があることが明らかになった。以上の成果については次年度中に公刊する予定である。今後はそれらの要因分析をさらに踏み込んで行うことが大きな課題である。また、ジェンダー間分業の再編に農村地域に展開されつつあるネットワーク活動や公的社会教育や自治体女性政策が果たす意義を理論的・実証的に明らかにすることも重要である。これらは次年度以降の残された課題である。
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