本研究の目的は日本の農村女性の自立の条件と自立の具体的プロセスを女性労働の存在構造を踏まえつつ、明らかにすることであった。本研究の成果の概要を以下のとおりである。第一に農村女性労働の理論的枠組みの検討を行い、農業労働のジェンダー間分業という枠組みを新たに提起し、60年代以降の農業近代化のもとで明確化する農業労働のジェンダー間分業(=機械作業・熟練労働は男性、補助的単純作業は女性)が、農家女性の非所有、無償労働を基礎づけたことを明らかにした。さらにジェンダー間分業は、農家政策、新生活運動や生活改善活動等の教育・普及制度、マスメデイア等をつうじて農民に受容されていったことをあきらかにした。第二に、近年の部門分担、家族経営協定、女性起業等の動きに注目し、インテンシブな調査分析を行うことで、それらが農村女性労働を社会的に価値を持つ自己実現労働に転換し、従来のジェンダー関係の修正を迫る契機が含まれていることを明らかにした。しかし、それも労働市場や農業形態、土地所有制度、さらには「近代家族」イデオロギーに制約されて、一定の限界があることを明らかにした。第三に、女性が労働・経営に参画していくには、地域社会のジェンダー関係を変革していくことが重要である。そこで、家族内や地縁的関係に埋もれていた女性達が志縁や知縁による新たな関係を構築する取り組みに注目し、個を基本としたネットワークを志向しようとする女性たちのエンパワーメントの内実を明らかにした。また、再び地域に根を据えて、志縁と知縁を繋いだ新たな地域共同体の構築を目指そうとする試みが生まれていることを明らかにした。第四に、公的社会教育、普及制度、自治体女性政策が女性の主体的取り組みを支えていることを実証的に明らかにした。とくにエンパワーメントを引き出し、地域づくりの学びを組織するネットワーク活動や学習・教育の役割が重要であることが明らかになった。
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